「いが栗」の語源

今回、語釈を引用した国語辞典は
『新明解国語辞典 第7版』

いがぐり【毬栗】

◇ 語釈
①いがに包まれたままのクリ。
②髪の毛を短く丸刈りにした(男子の)頭。いがぐりあたま。

いが【梂/毬】

◇ 語釈
クリなどの実を包む外皮。とげが密生している。

◇ 解字
形声。毛+求声。求は、たま・まり(球)の意。

◇ 語源説
①厳(イカ)/厳皮(イカカワ)/怒り(イカリ)
②苛(イラ)/苛皮(イラカワ)
③射毛(イゲ)

◇ 私見①
大言海は、鬼皮が「嚴キモノノ意」であるから「厳」が「毬」の語源ではないかというが、そもそも「鬼皮」という語が、大言海より古い書物から見つからない。

◇ 私見②
「刺(いら)」は草木のとげを意味する。これを重ねたものが「いらいら」の語源であるとされる。その根拠は『名語記』(1275年)に「海老はいらいらとして角ありて」とあるように、「いらいら」は具体的に刺が出ているさまを言う語だったからだ。そもそも、「刺」の由来とされる「苛」が、きびしい・わずらわしい・いかる・かゆい等の意味を持っており、「いらいら」の意味に直接通じている。

  • イラクサの漢名「蕁麻」、蕁麻疹の由来
  • 千島アイヌ語 → イラクサ “iri-iri-pi” 、直訳「イラ―イラさせる―もの」
  • ラテン語 → “ira” 「怒り」「いらいら」、英語の例 → “irritate”

◇ その他
「鬼」という漢字は、「グロテスクな頭部を持つ人の象形で、死者のたましいの意」を表す。角の生えた凶暴な妖怪のイメージは、平安時代以降に仏教の影響を受けて形成されたもので、それ以前は、この世ならざるもの、得体のしれないものを意味した。
新明解国語辞典の「グロテスク(grotesque)」の語釈は、「普通の意味の美とは ひどく かけ離れていて、長く見ているのがいやな(見ていて気持が悪くなるような)様子だ。グロ。」であり、かなり独特である。

くり【栗】

◇ 語釈
山野に自生し、また栽培もされる落葉高木。初夏に穂の形をした黄白色の花を開く。濃い茶色の いがに包まれた実は堅く、サツマイモのように黄色くて甘い。材は堅く、水にも強く、枕木や土台に使われる。[ブナ科]

◇ 解字
甲骨文は、木の上にくりのいががついているさまの象形で、くりの意を表す。篆文(てんぶん)は会意で、鹵(※の部位が人を縦に2つ)+木。

◇ 語源説
①黯(くり)[深い黒色のこと]
②塊(くれ)[かたまりのこと]
③kurit[南方語で皮をむく]
④kul[古代朝鮮語で栗]

◇ 私見①
大言海によると、「樹ノ皮ハ黒灰色ニテ、実ノ鬼皮ノ色ハ赭黒」であるから「黯」が「栗」の語源ではないかとある。しかし、栗の樹皮の色は灰色、また鬼皮の色は栗色(濃い茶色)であり、黒くはない。

◇ 私見③
稲作以前の時代、秋にとれる木の実類は日本人の重要な食糧であった。南方からやって来た人々が食い繋ぐために栗の毬や皮をむいていた光景が想像できる。したがって、「皮をむく」という意味の “kurit” が「栗」の語源になったというこの説を信じたくなるが、可能性の一つにすぎない。

私見④
古くは、栗をクルといったため、朝鮮語 “kul” と同源であると岩波古語辞典は書いているが、古代朝鮮語の復元は不確かなものである。

ふんわりとしたまとめ

苛 (いら)→ 刺(いら) → いらいら


参考

  • 岩波 古語辞典 補訂版
  • 木の名の由来
  • 暮らしのことば 新語源辞典
  • 広漢和辞典
  • 新明解国語辞典 第7版
  • 続・国語語源辞典
  • 大言海
  • 日本語源大辞典
  • Wikipedia –
  • Wikipedia – クリ

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール