今回、語釈を引用した国語辞典は
『福武国語辞典〈新デザイン版〉』
もり【森】
◇ 語釈
①木がたくさん茂っているところ。「―の都」
②神社のある地の木立。「鎮守の―」▽「杜」とも書く。
[参考]一般に「林」より樹木が多く茂り、奥深いものをいう。
(林の語源はこちら)
◇ 解字
【森】会意。三つの木で、木の多いところ。もりの意を表す。
◇ 語源説
①鳥獣の籠る(コモル)ところ
②杜(モリ)/守る(マモル)
③盛り(モリ)
④雨が木の間から漏る(モル)
⑤群れ(ムレ)/諸(モロ)
⑥mori[古代朝鮮語で山の意]
◇ 私見
森は、古くは神社所在地をいったと思われる。次に万葉集の例を示す。
木綿懸けて 斎ふ(斎く)この神社 越えぬべく 思ほゆるかも 恋の繁きに
ゆふかけて いはふ(いつく)このもり こえぬべく おもほゆるかも こひのしげきに
次に、方言の例を示す。
方言 | 意味 | 地名 |
モリ | ひとつだけ離れた岡 | 東北地方 |
モリ | 神社 | 愛知県北設楽郡/飛騨 |
モリ | 舟玉様を祭った場所 | 愛媛県温泉郡 |
モリガミ | 神社 | 奈良県吉野郡 |
モリギ | 神木 | 埼玉県秩父郡 |
モリギ | 神社の森 | 八丈島 |
モリコ | イタコ | 盛岡市/茨城県北相馬郡 |
平地にあって盛り上がったところを森と言ったのではないかと思う。そして、そのような特異な場所はしばしば信仰の対象となる。「森」「杜」「盛り上がる」は同源であると考えられる。
◇ その他
岩波古語辞典は、森と朝鮮語で山を意味する “mori” が同源であると明記している。この場合、「森」と「盛り上がる」が同源とは考えにくいが、古代朝鮮語の祖形(新羅語)の復元は不確かなものであり、これを語源とするのは厳しいと思う。
「もこもこ」「もくもく」「もぐもぐ」「もじゃもじゃ」「もやもや」などの「も」で始まるオノマトペや、「捩る」「揉む」「盛り上がる」などの「も」で始まる動詞には、柔らかさを感じる。これらは「も」に曲線的なイメージを抱いて作られた日本古来の言葉かもしれない。
ふんわりとしたまとめ
森は、「盛り上がる」と同源かもしれない
参考
- 岩波古語辞典
- 暮らしのことば 新語源辞典
- 広漢和辞典
- 国語語源辞典
- 日本語源大辞典
- 福武国語辞典〈新デザイン版〉
- Wikipedia –古代朝鮮語–